「JOC経理部長」自殺報道に関係者が激怒 JOCを組織委や招致委と“混同”のお粗末

  日本オリンピック委員会JOC)の経理部長が電車に飛び込んで亡くなったニュースが、大きな波紋を呼んでいる。一報が流れて以降、故人の肩書きから、自死の原因は「五輪のカネ」に関係しているのではないかという憶測がネット上で出回っているのだ。だが、実はこれらは根本的な事実誤認から生まれたデマ。「こじつけで不見識極まりない」とJOC関係者は、みな憤っているという。

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警察は自殺と判断

 ショッキングなニュースが流れたのは、6月7日の午後のこと。同日午前9時20分頃、東京都品川区の都営地下鉄浅草線「中延駅」で、ホームにいたJOCの経理部長(享年52)が、進入してきた電車と接触したのだ。部長は頭を強く打ち、病院に搬送されたが2時間後に死亡が確認された。ホームに設置されたカメラには部長が自ら列車に飛び込んでいった映像が残されており、警察は自殺とみている。だが、一部報道によれば、遺族は「自殺は考えられない」と強く否定しているという。

「遺族としては突然のことで、家族が自ら命を絶ったとは信じたくないという気持ちなのでしょう。ただ、警察はカメラの映像を確認し、運転士に事情を聞いた上で自殺と判断しています。もちろん何らかの事情で、意思に反して、よろめいてしまった可能性も考えられますが、少なくとも第三者が介在したような事件性はありません」(警視庁関係者)

 いま経理部長の死は、開催か中止かで揺れる「五輪」と結び付けて語られ、ネット上では「陰謀論」まで飛び出す騒ぎとなっている。その中でよく言われていることが、彼が「五輪のカネ」に関して何らかの秘密を抱え、悩んでいたのではないかという「憶測」である。

まったく別の組織

 その憶測を煽っているのが、一部の週刊誌やネットメディアだ。6月10日発売の「週刊文春」は「JOC経理部長〈自殺〉“五輪裏金”と補助金不正」という見出しで、2016年に発覚した、東京五輪招致委員会がコンサル料の名目で国際オリンピック委員会(IOC)の委員に約2億3000万円を支払った“裏金疑惑”を、部長の死と関連づけて報じた。11日発売の「女性セブン」も、経理部長が迫る五輪の準備に追われていたという関係者の証言を紹介し、裏金疑惑に加え、5月末に国会で取り上げられた、東京五輪組織委員会が広告代理店に委託している人件費が、1日35万円と高額だった問題との関連を示唆している。

 だが、JOC関係者は呆れてこう語る。

「不見識もはなはだしい。『五輪のカネ』をめぐる疑惑が、これまであったのは事実です。でも、それは招致委や組織委の話。経理部長は、招致委や組織委に出向した事実もない。いま有象無象に沸き起こっている“疑惑”のほとんどが、彼とまったく関係ない話なのです。一連の報道は、JOCという組織についての理解不足が起因したミスリードです」

 スポーツ法学を専門の一つとする立教大学法学部教授で弁護士の早川吉尚氏によれば、JOC、招致委、組織委の3つの組織がいっしょくたにされて語られているという。早川氏が語る。

JOCというのは、日本での五輪が招致・開催されていようがいなかろうが、昔から存在している組織で、さまざまな競技団体を管轄し、アスリートの育成や強化を目的とした公益財団法人です。一方、東京オリパラ招致委員会とは、開催を希望する都市が中心に設立するもので、東京都が主体となって設立し、運営していたNPO法人JOCから出向する人はいますが、あくまで一部。ほかにも外務省や文科省日本サッカー協会からの出向者も合わせた“寄せ集め部隊”なのです。財源は主に都とスポンサーから賄われており、JOC自身の経理とは一切関係がありません。JOCは招致委に関しては、お金ではなく人を出すという意味で関わっているのです」

 組織委についても同様で、

「招致委は、招致が終わった段階で解散されます。その後、選ばれた都市はIOCと開催都市契約を結ぶのですが、この契約で設置が義務づけられているのが組織委。やはり主体は開催都市である東京都で、財源も主に都の収入とスポンサーで成り立っています」

JOCは火の車

 早川氏は、16年に招致委の裏金疑惑が生じた時、JOCが設置した調査チームの座長を務めた。

「なぜ招致委の問題なのにJOCが調査したかというと、招致委はすでに解散しており、他に調査する母体がなかったからだけです。あの時の資料を改めて調べてみましたが、自殺したとされるJOC経理部長が招致委に出向していたという記録はありませんでした。その後、設置された組織委にも出向していない。そもそもまったく違う組織の経理なので、彼は『裏金疑惑』や『人件費問題』に物理的に関与しようがないのです」

 その上で早川氏は、あくまで仮定と断りつつ、次のように語る。

「もしJOC経理部長の立場にある方が仕事に悩んでいたなら、それはJOC内部の経理問題についてでしょう。いまJOCは火の車です。コロナ禍で、主催するスポーツ大会がことごとく中止になってしまったため、マーケティング収入やスポンサー収入が激減しているのです。だが、職員の給料や恒常的な事業費など支出は変わらずあるし、国立競技場の横に新設された新拠点『ジャパン・スポーツ・オリンピック・スクエア』の建設費も重くのしかかっている。経理部長がもし何かに思い悩んでいたとしたら、コロナ禍で逼迫しているJOC経理についてと考えたほうが自然なのです」

「Qアノン」状態

 ネット上では「疑惑」を「真相」のように紹介する者まで出てきている。例えば、2ちゃんねる創設者のひろゆき氏は、自身のYouTubeチャンネルで、経理部長があたかも贈収賄疑惑や人件費問題に関与していたかのように述べた後、次のように語った。

「嘘をついて刑事罰になるか闇に葬られるかの二択になってしまうんですね。家族もいらっしゃった方なので、秘密を守るために自殺したのか鬱病になっちゃったのかどっちかだと思います」

 このような状況を、早川氏は「もはやQアノン状態」と呆れる。前出のJOC関係者はこう憤る。

「彼が不正経理に加担したかのように受け取れるネット上での言動は看過できません。まじめ一徹に頑張ってきた故人の尊厳を傷つけており、ご遺族がいたたまれない」

 開催ありきで進める政治や組織委への反感が、亡くなった部長の肩書きに過敏に反応してしまったのかもしれない。だが、蓋を開ければ、思い違いから始まった情報が一人歩きしているだけなのだ。メディアも、慎重に事実関係を確認したうえで報じるべきである。
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